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2009年03月25日

「読書の時間」vol.2

『エスクァイア日本版』にちょっとゆかりのある、
話題の本を紹介する「読書の時間」。
第2回は内沼晋太郎さんの
『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』をご紹介します。

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本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本
内沼晋太郎(朝日新聞出版)¥2,310

内沼晋太郎さんは、新進気鋭のブックコーディネーターです。
といっても、ただブティックやカフェバーの書棚に
本をセレクトするだけではありません。
文庫本を丸ごと紙でくるんでしまって、
背表紙に抜き書きした本文の一節だけで本を選ばせたり、
売りものの本に自由に書き込みをさせたりと、
コンセプチュアルなアプローチで本と読み手の既存の関係性を解体し、
再構築する試みをしている人です。
ここに気鋭たるゆえんがあります。

『エスクァイア』2009年2月号の特集
「見せたい本棚のつくり方」では、
彼に「日本最高の本棚はどの書店にある!?」という企画をお願いして、
北海道から福岡まで、日本全国の書店巡りをしてもらいました。
このほど、その企画も収録された初めての単著が刊行されたのですが、
この本が実に面白い。

 まず、その造り。
『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』というタイトルの通り、
ブックコーディネーターとしての仕事の成果と実例を紹介する一方で、
内沼さんがどのようにして仕事を生み出していったか、
つまりブックコーディネーターになっていったかのプロセスや考え方も紹介する、
両面からの解説書になっています。

 ユニークなのが、「本の未来をつくる」お話をA面、
「仕事の未来をつくる」お話をB面として、
一冊の表と裏、両側から読めるようになっている点です
(つまり表裏、どちらもが表紙)。

 前者はカタログのように、事例ごとに写真入りでプロジェクトを紹介。
成功例あり、いまだ模索中のものありですが、
ひとつひとつのプロジェクトに至る概念や手法は極めてアート作品に近く、
まるで展覧会を見ているような気分になります。

 後者については、
もともとお金を生む仕事として成立していなかった「好きなこと」で、
自身がどのようにしてお金を得られるようになったか、
その秘訣を惜しげもなく披露。
1ページに1テーマずつ、「『なにものか』を目指すことのすすめ」
「『業界の地図』を知る」などのキャッチーなフレーズとともに、
ハウツー本のような体裁で「仕事」をつくる実践法を説いています。

 さらにA面には、chapter2として、
内沼さんが本に対してつれづれなるままに書き留めた
エッセイが差し込まれています。
そこには、出版の未来を示唆するアイデアが満載。

 本や雑誌といった印刷物がインターネットにとって代わられるのではないか、
という話があちこちで聞かれるようになって久しいですよね
(実際、今回『エスクァイア』の休刊が決まってからというもの、そういう議論をあちこちで耳にしました。それはそれは、もううんざりするほど!)。

ロストジェネレーション世代、1980年生まれの内沼さんは、
ネットをごく身近なツールとして育って来た若者ですが、
彼自身デジタルの利便性を謳歌しながらも「本はこれから一層、
力強いプロダクトになっていく宿命なんじゃないか」と言います。
紙という物質を伴ったプロダクトゆえの手触り、香り、
デザインの魅力を代用することはできないから、と。

「というわけでプロの人たちはなおさら、いかに売り場でプロダクトとしての魅力を放つかということをやらなきゃいけない。そのためにはデジタルでどういうコンテンツが生成あるいは複製されどんなメディアで流通するのかも、常にウォッチしなきゃいけない。その上で『じゃあぼくたちの本はこんなプロダクトにしてやろう』という風に考えないと、コンテンツ屋にシフトするならともかく、本をつくるなら未来はないのではないかと思うのです」という言葉を心に刻みました。
 
 最後に、本著に収録された『エスクァイア』の記事に嬉しい発見がありました。
それは、本誌掲載時には「日本一の本棚はどの書店にある?」
となっていたタイトルが、本著では
「日本各地の書店をまわって、いつか自分の書店をやりたいかもしれないと考えた」に変わっていたこと。

 大幅に加筆されたテキストに
「書店でないということの可能性より、書店であるということの可能性のほうが、ひょっとしたら大きく、面白いかもしれない、と感じてしまったのだ」
という所感が加わっているのを見つけた時、ブックコーディネーターとして
本を書店の外に持ち出すことに喜びと手応えを感じて来た彼に、
そんな気持ちの萌芽のきっかけがつくれたのだとしたら、
『エスクァイア』のあの企画にも意味があったのかな、という気がしたのでした。

 雑誌とは、記事をつくる過程を通じて、
読み手の中にもつくり手の中にもなにか新しい発見を生み、
それを未来につなげていくことができる装置なのではないだろうか。
「コンテンツ屋にシフトしない」自負を持てる理由は
そんなところにもあるんじゃなかろうか、そんなことを思いました。











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posted by esky復刊応援コミッティ at 03:06 | Comment(0) | TrackBack(1) | 読書の時間 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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発売から一週間経って、感謝の気持ちを込めて。
Excerpt: 発売して、ちょうど1週間が経過したのですが、早くもたくさんの取材の依頼や、ブログやmixi日記などを通じたコメントをいただきました。そのうちのいくつかをご紹介したいと思いま...
Weblog: 本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本
Tracked: 2009-03-25 15:58