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2009年05月21日

レビュー回顧〜手元に残ったCDについて その4

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『エスクァイア日本版』音楽担当が綴る、レビュー回顧。
弟4回はソプラノ歌手、キャスリーン・バトルの『ソー・メニー・スターズ』です。


音楽を「聴くこと」の基準とは。

『エスクァイア日本版』には、さまざまなジャンルの音源が届きます。
今日においては、音楽の発表の場はメジャーレーベルのCDに限らず、
インディーレーベルやアーティスト本人によるサイト、
またはmyspaceなどと広がっていますが、
’90年代後半はまだまだレコード会社がその中心的役割を果たしていました。
ほぼ毎日のようにレコード会社のプロモーターの方が来社して、
カセットテープのサンプル音源を幾つも置いていきます。
机の上にはあっという間にテープの壁が出来てしまいました。
それを何本かずつ家に持ち帰り、聴くことが日課となりました。

前任の音楽担当N氏の意向もあって、本誌のレビューで紹介する音楽は、
ジャンルを問わないことが不文律としてありました。
ロックやポップスがもちろん多いのですが、エスクァイア的音楽でもあるジャズ、
さらにはクラシックや現代音楽、民族音楽からクラブミュージックまで、
守備すべき範囲は実に幅広い。わけがわからないまま資料とにらめっこしながら、
恐る恐る触れる音楽が半分以上でした。中でも最も不案内だったのが、
クラシック音楽でした。

そんな戸惑いの時期に出合い、その後も聴き続けることになったのが、
今回挙げるキャスリーン・バトルの『ソー・メニー・スターズ』です。
黒人のソプラノ歌手として、オペラやクラシック音楽の分野で活躍するバトルが、
自ら企画したアルバム。そこに収められているのは、
「ねむれねむれ」や「家路」といった童謡とも呼べる親しみ深いメロディです。
タイトル曲はなんとセルジオ・メンデスのもの。
それらをジャズのミュージシャンたちの演奏とともに、
コロラトゥーラを交えながら丁寧に歌っています。

演奏しているのは、サイラス・チェスナット(ピアノ)、
クリスチャン・マクブライド(ベース)、ジェームス・カーター(バスクラ)
そしてグローヴァー・ワシントンJr.(サックス)ら。
ジャズに明るい人なら皆よくご存知の名前でしょう。
グローヴァー・ワシントンJr.以外は、当時ジャズシーンにおいて
新進気鋭として頭角を表しはじめたジャズメンたちでした。

こうした音楽を「中間音楽」として、軽んじる向きもあります。
確かに、ジャズの音楽家がクラシック音楽を演奏したり、
クラシックの音楽家がポピュラー音楽を手がけたりすると、
グルーヴ感が不足したり、アンサンブルにテンションが欠けたりして、
単にイージーリスニングなサウンドに終始する場合があります。
このアルバムも確かに聴きやすい。
しかし、そのスムースさの背後には、音楽を生み出す確かな技術の存在と、
信じる美を伝えんとする確固たる意志が、感じられます。
見た目は名を成した音楽家の余技然としていますが、
その音には「ひたむきさ」があるように思えてならない。

複雑さや難解さを、それゆえに賞賛するのは、
知的を装った行為であり、決して真価を識ったわけではない。
むしろ現前するサウンドを受け入れ、その体験がどれほど美しく、
味わい深いものであったかを実感することが重要なのでは。
このアルバムを聴くたびに、そんなことを思います。
つまり、この作品は私の音楽鑑賞上の、ベンチマーク的存在なのかもしれません。
クラシック音楽に親しむようになった今でも、
その位置づけは変わっていないようです。

本誌音楽担当S



キャスリーン・バトル「Frühlingsstimmen - Voices of Spring」。
指揮はヘルベルト・フォン・カラヤン。
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posted by esky復刊応援コミッティ at 14:37 | Comment(0) | TrackBack(0) | 裏Esky Music/レビュー回顧 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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