元『エスクァイア日本版』音楽担当が綴る、レビュー回顧。
第6回はサザン・カルチャー・オン・ザ・スキッズの
『ダート・トラック・デイト』です。
聴かせて楽しませる技術。
ここ最近では、CD店店頭に
「AMERICANA」という名称のコーナーが見られるようになりました。
もともとはカントリーから派生した音楽についた名前だそうですが、
コーナーにはカントリーというには、オルタナティヴだったり、
よりフォーキーだったりと、結構さまざまなテイストの音源が並んでいます。
いくつか聴くと、アメリカのカントリーサイドの情景が、
しかもそれぞれ違った様子で眼前に(耳前に?)浮かび上がるようです。
昔ながらのカントリーが、ノーマン・ロックウェルの絵のような
「古き良き」ノスタルジアを描いているとするなら、
アメリカーナは、例えばロバート・フランク、
時にはダイアン・アーバスの写真のような、
苦みを備えたヴィジョンを持っているといえるでしょう。
そんなアメリカならでは、かつフレッシュな音楽を聴いていると、
過去にもそうした経験をしたことが思い出されます。
’96年の2月号のレビューで取り上げた
サザン・カルチャー・オン・ザ・スキッズ(SCOTS)
『ダート・トラック・デイト』がそれ。
カントリーの音感に、ドライヴ感のあるリズム。
当時はB-52’s的なサウンドなどと思っていましたが、
今改めて聴くと、実はオーセンティックな音づくりがベースであることがわかります。
強いグルーヴは演奏自体から生み出されているものなのです。
それは例えば『パルプ・フィクション』に使われリバイバルヒットした
ディック・デイル&デルトーンズの「ミザルー」にも通じるところがあります。
当時は、南部の新しい音楽のムーヴメントが
ようやく日本でも知られ始めていました。
スタントン・ムーアらによるニューオーリンズのブラスバンドシーン、
ディクシー・チックスに代表されるネオ・カントリー&ブルーグラス。
いずれも南部の土くささを特徴としながら、グルーヴやサウンドの面で、
ロックやヒップホップに慣れたリスナーの耳も捉える
エッジを備えていたように思います。
土くさい、という点では、「トラクターズ」なんて名前のバンドもいましたね。
デヴィット・リンチの『ストレイト・ストーリー』でおなじみの
緑のトラクターが誇らしげにジャケット全面に使われていました。
日本ならさしずめヤンマーの赤いトラクターや
イセキのコンバインをジャケットにもってくる感じでしょうか。
うーん、ダサかっこいい。
SCOTSに話を戻すと、
彼らが新宿リキッドルームで行ったライブを見た記憶があります。
演奏技術の確かさもさることながら、そのステージマナーに圧倒されました。
客席も和んできたライブ中盤、ヴォーカルの女性がステージ袖から持ってきたのは、
なんとフライドチキンのパーティバーレル。
そこにやおら手を突っ込むと、
客席に向かってフライドチキンを「撒き」始めたのです。
わけがわからないその行動、しかしあたかも餌づけされた鯉のように
観客はチキンに群がり、一気に異様な熱気に包まれたのでした。
それはきっと、彼らがアメリカ国内を長くツアーする中で編み出された
工夫でありひとつの芸なのでしょう。
同時に、彼らの音楽の強度を裏打ちするものでもあります。
ライブの空間で、いろいろなタイプの
リスナーをつかんで離さないステージを目指す。
もちろん音楽性は重要ですが、
そうした「聴かせて、楽しませる」ことへの強い気持ちが、
音楽そのもののタフネスに繋がり、
ひいては先述のような芸を生み出しているのです。
そして、アメリカの音楽には、そうした強さが、
今も脈々と息づいているように感じています。
文=元 『エスクァイア日本版』音楽担当S
Southern Culture on The Skids 「 Camel Walk」Live
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